2026年06月25日 暮らし・文化・アート
北アルプスの森と暮らしをつなぎ、地域材が循環するしくみづくりに挑むコミュニティ
北アルプス山麓に位置する大北地域は、山々に囲まれた豊かな森林資源の宝庫。地域の森林には、広葉樹を中心とした多様な樹種が育まれており、独自の自然環境を形成しています。その一方で、流通条件や森林構成の特徴から、地域の林業はこれまで大きな可能性を秘めながらも十分に発展してこなかった経緯があります。

しかし、輸入木材の急速な価格高騰「ウッドショック」を背景に、近年は地域材の活用に目が向けられ、長野県北アルプス地域振興局でも2021年から、広葉樹を含む地域材活用に向けた円卓会議をスタート。会議には林業関係者を中心とした地元の事業者が参加し、つながりを深めてきました。
やがて、その活動の輪が発展して、2024年4月に「北アルプス森とつながる暮らし案内所」(以下、もりとくら)が発足。活動開始から丸2年が経った今、もりとくらの発足の背景と取り組みの広がり、そして現在地について、メンバーのみなさんにお話を伺いました。
※「案内所」という名前には、北アルプス材のことを知りたい人や、何かを始めたいという人がまずコンタクトを取れるようにという思いが込められています。
地域材循環の川上から川下まで、思いを共有する仲間たち
もりとくらの代表を務めるのは、松川村を拠点にご夫婦で家具作りをされている「ソルンテ シマダカグ」(以下、ソルンテ)の嶋田ふみさん(以下、ふみさん)です。山主や製材業者、森林組合、木工作家など、森の木の川上から川下まで、さまざまな立場の人々が参加する円卓会議を重ねるなかで、それぞれのニーズや課題、地域林業の現状への理解が深まり、「地元の北アルプスの木を活かし、もっと適切に使っていきたい」という共通の思いが育まれていきました。
そうした機運を背景に、ふみさんの提案で、もりとくらが立ち上がりました。

◎嶋田ふみさんと嶋田好之(よしゆき)さん夫婦2人は、2009(平成21)年、松本・奈川に工房「ソルンテ」を構え、2017(平成29)年に松川村に移転。木製家具と小物のデザイン・製作・販売をしている。名前の由来は、好之さんの故郷の新潟弁で、天然木の性質で、収縮や膨張・反ることを表現した「木は反るんて(=solnte)」。
「円卓会議に参加していたメンバーのほとんどが、今も、もりとくらのメンバーとして活動しています。山側の人も木工の作り手もみんな地元の木に愛着がある人たちで、地域材を使っていきたいという思いを持っています」(ふみさん)
山主であり地域で林業を営む荒山林業、林業の山仕事創造社、林業と製材の北アルプス森林組合、そして地域の木工・家具作家、建築設計会社など、森に関わるさまざまなメンバー10団体18人が、「森とつながる暮らしのイメージ」を掲げ活動をスタートしました。現在は、さらにサポートメンバーを増やし、11団体が参加しています(2026年5月現在)。

もりとくらのホームページで紹介されているメンバーの皆さんです。






元々は、北アルプスエリアは広葉樹が多く(民有林の7割近く)、その多くは天然林だといいます。そのため、以前からなかなか用材として活用されていない現状がありました。
広葉樹は曲がりや反りが出やすく、太さにもばらつきがあるため、建築材や家具材として活用しにくい特性があります。そのため、これまでは、薪や燃料・製紙原料用のチップになることがほどんどでした。
とはいえ、北アルプスエリアの広葉樹は樹種が多く、樫などの照葉樹以外はほとんどがあるそうです。また、アカマツ以外の針葉樹のほとんどは人工林ですが、針葉樹も樹種が多く豊かな森が広がっています。

もりとくらでは、製材や乾燥方法を工夫することで、広葉樹の魅力を生かした日用品をオリジナルアイテムとして製作しています。また、メンバーである木工作家たちが、それぞれの活動の合間に製作を担うため、工程をできるだけシンプルにできるようデザインにも配慮。その無駄のない佇まいは、どんな暮らしにも自然に溶け込みます。
伐採からデザイン、製作、販売まで、すべて北アルプス山麓の顔の見える関係の中で生まれた、ぬくもりあふれる木のアイテム。商品パッケージには樹種を記載し、使い手が北アルプスの森に育つ木々の多様さに触れられる工夫も。日々の暮らしのなかで、地域の森林とのつながりを感じられる仕掛けになっています。
もりとくらが目指しているのは、木を単なる材料として流通させることだけではありません。地域の森にどんな木が育ち、誰が関わって製品になるのか。オリジナルアイテムを通して、そのストーリーを届けることで、使う人と森との距離を近づけようとしています。



2024年11月からはソルンテのショールームの一角にアンテナショップを構え、オリジナル商品を販売するほか、メンバーが北アルプス材を使って制作したアイテムや、北アルプス産の板材も取り揃えています。オープン時にはイベントも開催。ここがもりとくらの拠点であり案内所となることで、一般の人たちともつながっていく場となっています。




また、もりとくらはイベント出店を通した取り組みの発信にも積極的です。2025年は「ローカルワインフェスティバル」(松本・あがたの森公園)、「松川クラフトビアーフェスティバル」(松川村・松川中央公園リンリンパーク)、無印良品 ツルヤ安曇野穂高との協働イベント、「つなぐ木のいのち店」(松本・中町・蔵シック館)など、林業や木工関係のイベントに限らず参加しています。


こうした活動と並行して、長野県の補助金を利用しつつ地域林業のストーリーや活動の背景を伝えるリーフレットやホームページの制作、SNSでの情報発信も展開。林業や地域材の利用に馴染みのない人にも伝わりやすい言葉と親しみやすいデザインを通して、着実に共感の輪を広げています。
「どこで切ったのかわからない木であふれかえっている現実がある一方で、自分の暮らしのすぐそばにある山では伐採されないまま使われるのを待っている木がたくさんある。大量には採れないし、材質もバラバラですが、それも地元の木の個性としてポジティブに捉えてもらえるように、消費者に発信していきたいと思っています」(ふみさん)

地域材の循環に触れる「製材マルシェ」
製材マルシェ実行委員会(もりとくらのメンバーで構成)と長野県北アルプス地域振興局が、独自の取り組みとして年に一度開催しているイベントがあります。「製材」を切り口に地域材活用のヒントを探る「製材マルシェ」です。もりとくら発足以前、2022年から地域の有志が中心となって続けており、2025年で4回目を迎えました。
2026年2月27日~28日に開催された「製材マルシェvol.4」では、もりとくらのアンテナショップのほか、大町市内3つの木材倉庫(山川草木・北アルプス森林組合・山仕事創造舎)をKURA開きとして開放。北アルプス産の木材をその場で購入したり、活用方法の相談ができるイベントです。さらに、勉強会として「地域製材が鍵になる」と題した座談会も行われました。




もりとくらのメンバーであり、製材マルシェでは座談会のホストも務めた山川草木 代表の香山由人(かやまゆに)さんにお話伺いました。
「もともと北アルプス地域は林業が盛んな地域ではありません。地形は急峻で、木材を運ぶための交通条件にも制約があることから、成長した人工林が十分に活用されないまま残されることもありました。また、この地域の森には広葉樹が多く育っていますが、樹種ごとに性質が異なり、均一な材料を確保しにくいため、建材として利用するのが難しい面もあります。製材マルシェは、そうした北アルプス産材の特徴を知ってもらいながら、新たな活用の可能性を探り、広げていくための取り組みです」

◎香山由人(かやまゆに)さん
神奈川県川崎市出身。学生時代は海外協力NGOにてフィリピンで井戸掘り。国会議員秘書などを経て、自分の仕事はここじゃないと大町に。林業の仕事を志す。1995年から5年間、荒山林業で天然林を活かした多様な森林づくりを学ぶ。2000年「山仕事創造舎」を創業。補助金づくり等の経験から、林業について多くを学び、森林・植生の知識も身につける。2013年、株式会社山川草木を設立。総合森林コンサルタントと地域資源流通を目指す。長野県指導林業士。

森で木を育み伐る人と木を使う人の間には、製材や流通など多くの工程があります。しかし、その過程は一般の人はもちろん、建築や木工に携わる人であっても見えにくいものです。製材マルシェは、そうした地域材の流れを可視化し、人と木材をつなぎ直す場でもあります。
これまでの製材マルシェでは、製材のデモンストレーションや丸太切り体験、木工ワークショップを通して、子どもたちや地域の人たちに地域材の循環に触れてもらう機会を提供してきました。
さらに、もりとくらでは、地域材を活用してみたいという人たちが、地域材の在庫情報にすぐにアクセスできるよう、HPから地域内の4つの木材倉庫での地域材在庫情報(樹種・サイズ・出材地・伐採年月など)をリアルタイムで確認できるシステムも整備。地域材を探している建築関係者はもちろん、DIYや木工を楽しむ個人でも利用できるようになっており、「どこにどんな木があるのか」が見える環境づくりを進めています。今後は、掲載情報をもっと分かりやすく改訂して行く予定だそうです。

森を育み守る人、木を加工する人、使う人。それぞれをつなぐ取り組みを積み重ねることで、北アルプスの森で育った木が、地域の暮らしの中で活かされる循環が少しずつ生まれています。

地域材活用の一例として、現在、もりとくらのコアメンバーでもある木工ヤマニの内山翔平さん、未来さん夫妻は、大町市内で地域材を使って新たな工房づくりを進めています。柱や建具に使われているのは、翔平さんの祖父が約70年前に植えたスギ。床材に使うのは、もりとくらのメンバー3か所から集めたナラ材。地域で育った木を地域で製材し、自らの手で建物へと生かしていく取り組みです。
一本の木が育つには数十年の時間が必要です。その木を受け継ぎ、次の世代へとつないでいく営みは、もりとくらが目指す地域内循環を象徴する事例ともいえます。(2026年2月27日撮影・取材/2026年秋完成予定)


北アルプスの森の恵みの活用と循環するしくみづくりを目指して
もりとくら発足から2026年4月で丸2年。活動のスタートアップのために取得した長野県からの補助金の活用も今年が最終年となり一区切りとなります。5月にメンバーが経営する「カフェひのき」で開催された総会では、2025年度の取り組みの振り返りと、今後の活動の自走に向けて話し合いが行われました。





総会には17名が参加し、和やかな雰囲気のなか、メンバーがざっくばらんに意見を交わしました。その中で、論点に挙がったのが、取り組みの発信やコミュニティの広げ方についです。オリジナルアイテムについても、今後は商品数を増やすのではなく、今あるものをどう広げていくかを検討していきたいと考えています。

「これからの時代はSNSに頼った広報ではなく、自分たちで直接つながるコミュニティを作っていく必要があると思います。もりとくらの規模だったらそれができるはず。そのためには、noteやZINEなどの読み物でしっかりと思いや考えを発信して、共感してくれる人とつながっていくべきだなと」(山川草木・香山さん)

発信やコミュニティづくりのあり方が話題に上がる一方で、活動そのものがもたらした変化について、代表のふみさんはこう語ります。
「私が言い出しっぺで、もりとくらを始めたのは、北アルプスの地元の木を活かし、適切に使っていく、それを広める取り組みをみんなで模索していきたいという思いからです」。
そして、その手段について3つをあげ、今後も取り組んでいくといいます。
●手段1:地域材活用の窓口機能
・ここに来れば森の木が、どのように使われているか分かる森のアンテナショップ運営(場所づくり)
・ホームページ、コンセプトブック、イベント出店などユーザー向けの発信
●手段2:オリジナルグッズ
・地域材を利用したこんなものがあると知ってもらうための媒体としてのオリジナルグッズづくり
・カタログを活用した販路拡大
●手段3:地域材を使うためのしくみづくり
北アルプスの木をどのように使っていくか、使えるようにするか。そのしくみづくり。川下(作り手・使い手)への周知を広げることで、そのニーズや需要を発掘することで、川上(林業)が取り組みやすくなる
・地域材在庫情報(アップデート予定)
・公式ラインによる情報交換(予定)

「まだまだ作り手として川上(林業)、川中(製材)のことはわからない部分があります。それでも、川上や川中のことにまで思いを馳せられるようになったことは、もりとくらを立ち上げてよかったことです。地元の木を適切に使う手段を今後もみんなで模索していきたいと思います」(ソルンテ・ふみさん)

そして、荒山林業の荒山あゆみさんも今の思いを、次のように続けました。
「立ち上げメンバーも今後どう変化していくかは正直分からない。メンバー全員が必ずしも思いが一つでなくても、北アルプスの森に関わる人たちの生態系(※)にはなっていると思うんですよね。その生態系を活かして、北アルプス材が市場経済で優位になることを目指すのではなく、良いかたちで地域材を届けて、地域の景色を持続していければいいなと」(荒山林業・あゆみさん)
※生態系:お互いに関わり合いながら一つのシステムとして機能する状態(エコシステム)
荒山あゆみさんの言う「地域の景色(風景)の持続」は、未来にとってとても重要な観点だと感じました。かつて、美しい農村の風景を維持してきたのは、自然と共生しながら育まれてきた農業の営みです。その営みが変化してきたことで、今日の農村の風景は大きく変わってしまいました。同じように、林業を中心とした地域の山・森との関わり方が、里山の風景(景色)をつくってきたのです。
総会で交わされた言葉から見えてきたのは、地域材の活用という枠を超えた、もりとくらのこれからの姿でした。立場の違うメンバーが、それぞれに異なる視点を持ちながらも、北アルプスの森の未来を思い、同じテーブルを囲み続けている。立場を超えて森について語り合える関係性がある場では、自然と共感者が生まれ、伴い自発的に新しいチャレンジが生まれます。そのことが、林業分野では希な存在でもある「もりとくら」コミュニティを支える大切な土台になっています。


補助金による立ち上げ支援が一区切りを迎えるなか、もりとくらは次のステージへと歩み始めています。目指しているのは、単に地域材の利用量を増やすことではありません。森を守り育む人、木を加工する人、使う人がゆるやかにつながりながら、北アルプスの森の恵みを地域の暮らしの中で循環させていくこと。そのために、さまざまな情報発信を通して共感の輪を広げ、山主や木材流通関係者を含めた新たな仲間との出会いを育んでいこうとしています。

2026年3月2日、北アルプスの木のロゴデザインのお披露目インスタグラムの「決意表目のようなコメント」を紹介します。
もりとくらは、北アルプスの木々が、適切に活かされて、使われるための仕組みをメンバーと一緒に考えています。
すべての活動はそこにつながっています。
大切に育ってきた木、放置されてきた木、木が辿った年月は様々だけれども、今ここに生きていることは同じ。
そんな木を林業の方が丁寧に伐り、手間はかかるけど、少しでも活かせるように選別し、それを製材、乾燥させる。
製品材になった木は建築家、大工、木工家、個人ユーザーが新たに息を吹き込んでいく。
言葉で書いてしまえば簡単な感じですが、そこにはたくさんの人とが関わり、たくさんの労力が注がれています。そして、この北アルプスの森を大切に守り育てたい気持ちにもあふれています。
地域材を使う
この取り組みを想いを持ってコツコツと続けていくための、そしてみなさんに関心を持っていただくための目印として、このロゴマークは生まれました。
ぜひ、一緒に北アルプスの木に、地域の木々に光があたりますように。
そんな想いでもりとくらの活動は続きます。
これからもよろしくお願いします。
大きな市場経済の流れから少し離れ、もりとくらのように地域のしくみに目を向けることで動き出すことがたくさんあると思います。巨大化してしまった市場経済の中では、身動きがとれないことでも生態系的なコミュニティの中では、新しい営みや健全な循環が生まれる可能性があります。
そしてそんな、コミュニティでは、暮らしに落ち着きと色どりが育まれます。
北アルプスの森で育った木が、地域の人々の手を経て暮らしの中で活かされ、再び森へとつながっていく。もりとくらの挑戦は、地域材の活用を超えて、この土地ならではの風景や営みを未来へ受け継ぐ、とても注目すべき取り組みでもあるのです。
北アルプス森とつながる暮らし案内所
HP:https://www.kitaalps-moritokura.com/
Instagram:https://www.instagram.com/kitaalps_moritokura/
◎参考(国の取り組み)
林野庁「広葉樹の取組」webサイト
「里山広葉樹の利活用と再生」
https://www.rinya.maff.go.jp/j/keikaku/kouyouzyu.html
◎メンバー紹介(2026年5月現在)
※ホームページ掲載順/一部敬称略
山仕事創造舎
荒山林業
北アルプス森林組合
山川草木
木工ヤマニ
工房ぐるり Lady of Wood
Solnte shimada-kagu
まるやま設計室
ハイランドデザイン
カフェひのき
株式会社SpaceDesign
合同会社ローカルフォレストリー
やまさと林業株式会社/やまさと農園株式会社
山と小屋建築舎ヒュッタ
合同会社建築家くくのち
ノラデザイン
仁科商店
株式会社USAGI Education
下川加奈子・下川龍一
大久保ハウス木工舎
無印良品ツルヤ安曇野穂高










