『腸と森の「土」を育てる』を読んで、微生物に感謝だなあ。とつくづく思う。


人間も含め生き物は、生物多様性、特に微生物の多様性の中で生きているんだ。と実感できる内容だ。人間の腸内の健康から、土壌の話、地球の健康、SDGs、ドローダウンまで、著者の膨大な知識を惜しげもなく綴られた多くの気づきを得る最適な著書だと思う。

ある意味、すべての答えは土の中や海の微生物との関係性に託されているといっていい。
気候変動と同等に、生物多様性の重要性を考える機会となる本である。

腸と森の「土」を育てる
ー微生物が健康にする人と環境ー
著者:桐村里紗(内科医・認定産業医、tenrai株式会社代表取締役医師)

◎以下は内容の一部を抜粋しまとめたもの(一読あれ)

人は森である、腸に土を内包している

これからの時代は、無視してきた「裏側」をも見て「全体性」を観察し、根本解決をする時代です。
森を生かすのは、裏にある生きた土。そこには、多様な生命が息づき、呼吸し、血液のように水が循環しています。

●生物ダイバーシティが「生きた土」をつくる

小さな土壌生物たちミミズ、ヤスデ、ダンゴムシ、アリ、ダニ、線虫(カタツムリ、ナメクジも)たちが、落ち葉などの大きな有機物を粉々に分解してくれる。例えば、代表選手のミミズの腸内には、落ち葉を分解して栄養に変える優秀な腸内細菌がいて、糞として豊かな「土の素」をつくります。

最終的にできた栄養豊富な生成物を腐植といいます。
※土壌有機物の7~8割が腐植物質

細菌・放線菌・菌類などの微生物が、粉々になった「土の素」を分解・発酵させることで、植物に吸収可能な栄養素をつくり出します。
つまり、微生物がいなければ、土はつくられず、植物は生きられません。微生物は、フルボ酸などの有機酸を産生します。これにより、土壌のpHを最適化し、微生物自体が活性化し植物を元気にします。
※細菌(バクテリア)は、腐食を分解し、植物に必要な栄養素(アミノ酸・核酸・ビタミン・ホルモン)つくり、粘物質を出してミクロ団粒をつくる。

●微生物の数
肌1c㎡には1,000匹以上の微生物がいます。
川や海の水1ml中には少なくとも10万匹の微生物がいます。
土1gの中には数億~数十億匹の微生物がいます。
さらに、人間の腸の中に住む常在細菌は約100兆個を超えるといわれていますが、人間の細胞の数が約60兆個(近年の数値では37兆2,000億個)ですので、それよりはるかに多い微生物が私たちの体内で暮らしていることになります。つまり、微生物は地球上のどこにでもおり、我々は微生物と密に付き合いながら暮らしているのです。
2018年時点で発表の人間の遺伝子の数は、2万1,306個、一方腸内細菌叢(そう)の遺伝子の数は少なくとも1200万、人の遺伝子の約500倍。
また、地球上の海水1リットル中に、平均約30億個のウイルスが存在。

地球上で最も微生物が活発なのは、土の表面(表土:深さ30cm程度)です。
こうした陸地の生態系は、水を通じて、河川や海の生態系にも影響を与えます。すべての生態系は、ネットワークを形成し、相互依存関係があります。人もその一部なのです。

●相関する人と森のシステム

森と全く同じことが、人の消化管で行われています。
口から腸までの消化管と常在細菌は、共同作業によって食物を分解・発酵し、腸内に栄養豊富な土をつくります。腸はその土に根を下ろし、栄養を吸収し、血管を通じて細胞を養います。
つまり、血管が植物でいう葉脈で、人の細胞が、葉にあたります。細胞を健康にしたいと思うなら、腸の土壌改良が不可欠です。

食べ物は、歯の咀嚼によって粉々になり、唾液や胃液、腸液などの消化液に含まれる「消化酵素」で分解されます。(土壌のミミズの役割)
分解されたものは、腸内に運ばれると、今度は腸内細菌が発酵させ、その結果としてビタミンやミネラル、アミノ酸、有機酸などの栄養が豊富な腐植土ができあがります。ミネラル(カリウム・鉄・カルシウムなど)のような吸収しづらい栄養素も腸内細菌の発酵やサポートを経て人に吸収されやすい形になります。
栄養吸収は、主に小腸までに行われます。ここまでで、消化吸収されなかった分は大腸の腸内細菌に回します。

●根と根圏微生物、腸と腸内細菌の共生関係

植物の根を取りまく微生物活性化エリアを根圏といいます。植物と微生物の微妙な共生関係が築かれています。
根は、糖やアミノ酸などを含む粘液を出して、微生物を養います。
その粘液には、病原性微生物に対する抗菌活性もあり、根と共生関係のある微生物が暮らしやすい環境をつくります。
植物は、微生物に覆われた根圏によって、病原菌からガードしてもらったり、病原菌と戦う免疫力を高めてもらったり、栄養の吸収をサポートしてもらったりします。

一方、腸の細胞からは、糖タンパク質を含むヌルヌルの粘液が分泌されます。それは、腸内細菌を養います。腸内細菌は、代わりに病原菌が入り込まないように腸壁を守り、免疫細胞と協力して防御を強化します。
腸壁は、体内に入れてはいけない外敵や異物は通さず、必要な栄養素だけを通す能力があります。

●海は生命を生み出す源

海中の微細藻類は、光合成を行い二酸化炭素を取り込み、地球上の2/3の酸素を生み出しています。微細藻類の栄養は、微生物によって生み出されていますから、微生物は地球の微妙な均衡にも関与しています。

合わせて読みたい