身の回りのプラスチックを木に換えて、海外から運ばれてくる化石資源を使わない、気持ちいい社会へ


岡山生まれのNPO、大好きな信州にも根を張る準備中

NPO法人 木にかえる 理事長 : 田中健昌さん

NPO法人「木にかえる」は、2019年5月に設立。
理事長の田中健昌(たなかけんすけ)さんが、岡山県津山市で地域おこし協力隊の任期を終えて立ち上げました。協力隊として行っていた木工工房などでの活動を継続・発展させています。

身の回りにある日用品や家電製品に使われているプラスチックと金属を、できる部分から木に換えていこうという活動です。
ほぼ100%輸入、限りある化石資源を材料とするプラスチックは、原料の輸送や精製・加工の過程で大きなエネルギーを使って作られます。そしてプラスチックゴミが環境に悪影響を及ぼしていることは、すでに地球規模の事実です。
対して、国土の3分の2が森林である日本では、価格下落などの理由から、木材の利用が十分に進んでいません。カーボンニュートラルで持続可能な資源である国内産の木を有効に使うことは、森林資源が生き永らえるための取り組みでもあります。

田中さんは、岡山の拠点は残しながら、関東圏に近く昔からよく来ていた信州に、新たな製作拠点と仲間を求めて動いています。県内のイベントに出店して、製品を展示・販売しながら活動の趣旨を伝えています。

自分のために生きたから、次は社会のためになる人生を

諏訪湖のほど近く、エネルギーの地産地消を提案する体験展示場「鴨池川エナジーパーク」。大きな農業用ビニールハウスの中で機械音が鳴ります。
卓上にあるのは木工旋盤と呼ばれるマシン。木材を両側から挟んで高速で回転させながら、刃物を当てて削っていき、丸い棒状のもの、お皿や器のような形を作ることができます。

「この小さい角材で作るのは、シャープペンの軸ですね。テープカッターは、CADデータを読み込ませたCNC加工機というのを使うと、3分くらいでできちゃいます」

このハウスは田中さんの仮の拠点、間借り中の工房です。

もともとものづくりに縁があったわけではありませんでした。名古屋で育ち、大学では経済を学んで、温泉地のリゾートホテルに就職しました。田中さんの世代は就職氷河期。自然の多い所で働きたいというぼんやりした理由で選んだ仕事でした。
数年働いて辞めた後、職が見つからずアルバイト生活も経験。東京でビル管理会社にいた時に起こったのが東日本大震災でした。

「経理を担当してたんですが、3.11の後、電気料金がみるみる上がったんですね。ちょうど円安もあったけど、日本が足元を見られてるなとくやしかったのが最初の気持ちでした」

そんなところからいろいろ調べていくうちに、オフグリッドや地域通貨のことを知るように。やがて、環境やエネルギーについても関心が向くようになりました。

「最初の就職もあまり考えずに決めていたし、自分のために生きるのはある程度やれたので、この先は社会に返せることをしたいと思ったんです。年齢的にも、自分で何かをしなきゃいけないなと。化石資源を使うのを減らして、エネルギーは自前で賄えれば、いろいろな問題が解決できるんじゃないか。木質の活用というのもそこで考えたことなんです」

使い捨てはもうやめよう! 木製コップ・お皿の普及へ

環境やエネルギーを考えた時、都会で暮らす選択肢はあり得ませんでした。
再生エネルギーの普及に取り組める地域おこし協力隊を探すと、その時全国で岡山に1カ所だけ。ジャンルは違ったものの、それでも再エネをやりたいと、津山市へ移りました。

「経理の人間なので、木なんか使ったことがないわけです。木工クラブに通って扱いを覚え、近所のおじいちゃんの倉庫を使わせてもらいました。作るのはどれも小さなものばかりなので、単価設定もきちんとすれば、原木から出る端材に価値を付けられるんですよね」

最初のステップは、イベントなどで大量に使い捨てられるプラスチックコップや紙皿などを、再利用できる木製に換えようという取り組み。
シャープペンの軸を自分で手作りするワークショップも人気です。

ワークショップの様子です。
コツをつかめば、思ったより簡単に削れます。

「コップなどはイベントごとにレンタルで提供して、洗う作業はこちらで行います。“もう使い捨てコップは使わない”という考えが浸透してほしい。漆塗りのコップだともっと耐久性はあるし、海外の方へもアピールできるのでよりイベント向きだと。シャープペンやテープカッターは、ぜひ子どもたちに使ってもらいたいんですよね」

木にかえることで、暮らしを心地よく変えるきっかけに

岡山の拠点と同様に、ボランティアや趣味の一環として製作を担ってくれる、木工好きな仲間を集めたいという田中さん。さらに、工房スペースとして倉庫や土地を貸してもらえる人も募っています。

「今は資金がなく、このCNCマシンも借りている状態。早く自前の設備でやりたい。いろんな人の手を借りないと物事が進まないというのは身に沁みているので、志のある方々の参加を待っています」

田中さんが最終的に目指したいところはどこなのでしょうか。

「エネルギー資源を、太陽光などで100%自給できるように。使うエネルギー自体を減らすため、住まいは木で建てるスモールハウスです。地方暮らしのテレワークが進めば、収入は変わらずに環境負荷が減らせる。家の中のプラスチックを木に換えるというのは、向かっている夢のうちの一部です。プラスチックよりも木に囲まれた暮らしの方が、自分も地球も気持ちいいじゃないですか」

NPOのフライヤーです。
諏訪拠点の仲間たち!

田中さんを中心に若いメンバーが集まり、動き出した「木にかえる」諏訪拠点。
現在、全国各地での拠点づくりを目指しています。
手作りの木のあたたかさを、たくさんの人の手のあたたかさで伝え広めていけることを願いながら、今日も一つ一つ丁寧に木片を削っていきます。

NPO法人木にかえる
https://kinikaeru.jp/

合わせて読みたい