2025年04月29日 暮らし・文化・アート
信州大学と松本市の共同で実現した「気候市民会議まつもと」。実行委員会と共に大きな推進力となってくれた『気候わかもの会議まつもと』の存在に大注目

◎気候市民会議とは
気候市民会議とは 無作為抽出で選ばれた市民が、専門家から情報提供を受けながら議論することで、気候変動対策をまとめ、自治体の施策に反映させることを目的としています。
特定の業界や利害関係者の影響を受けにくく、多様な市民に共通する意見を反映した、広く受け入れられつつ効果の大きな気候変動対策を提示することができます。2019年から2020年にフランスやイギリスで100人を超える市民を集めて実施され、その後、日本を含む世界各地の国や地方自治体で実施されています。フランスやイギリスで出された提言は大きな注目を集め、2030年から2035年までにガソリン・ディーゼル車の新車販売を禁止するなど、政策にも影響を与えました。
【特徴】
①無作為抽出で選ばれた市民が参加するため、特定の業界や利害関係者の影響を受けにくい。
②年代や性別、居住エリアなどが地域全体の縮図になるよう選ばれる。
③政治家や専門家、民間NPOなどとは異なる視点で議論できる。
日本では2020年11月~12月に北海道札幌市で最初の気候市民会議(オンライン会議)が開催され、2022年には、川崎市、武蔵野市、江戸川区、所沢市、2023年には多摩市、厚木市、日野市、つくば市、逗子市・葉山町、仙台市、松戸市、横浜市青葉区、さいたま市、2024年には杉並区、松戸市、二宮町(神奈川県)、松本市、茅ヶ崎市、鎌倉市、世田谷区、2025年には東村山市、日野市・多摩市(2回目)、札幌市(2回目)と東日本エリアを中心に全国に広がっています。
「気候市民会議まつもと」が、2024年9月〜2025年1月の期間・全6回で開催された
松本市は、2020年1月に世界首長誓約/日本に署名し、同年(2020年)12月には、気候非常事態を宣言するとともに、2050年までに二酸化炭素をはじめとする温室効果ガス排出量の実質ゼロを目指すことを表明しました。
このゼロカーボンシティの実現に向けて、信州大学と松本市が共同し、市民の皆さんが気候変動について話し合い、行動できるような市民目線の取組みを考える場として「気候市民会議まつもと」を開催(2024年9月~2025年1月まで全6回)しました。
専門家からの情報提供を踏まえて会議で議論された参加者の意見は、気候変動対策「市民アクションプランinまつもと」としてまとめられました。
※2025年3月22日に臥雲市長出席のもと開催された「気候市民会議まつもと 報告会」でお披露目されました。
◎参加者の選出方法
2024年7月に市民の中から無作為抽出(※)された5,000人の方へ、「気候市民会議まつもと」への参加案内を送付。参加表明をいただいた方の中から、「まつもと市民の縮図」となるように50名の会議メンバーを抽出した。(実際の参加者47名)
※無作為抽出により、2024年4月1日時点で満16歳以上74歳以下の市内在住の方5,000人。
■気候市民会議まつもと概要
◎開催期間:2024年9月7日から2025年1月25日まで全6回
◎開催地:長野県松本市
◎主催:気候市民会議まつもと実行委員会
◎実行委員長:茅野恒秀・信州大学准教授(現在は法政大学 社会学部 教授)※「気候民主主義の日本における可能性と課題に関する研究」プロジェクトの研究メンバー
◎共催:松本市、信州大学グリーン社会協創機構


気候市民会議まつもとの詳しい説明と実施報告はこちら
https://www.city.matsumoto.nagano.jp/soshiki/51/143953.html

市民アクションプラン概要版はこちら
https://www.city.matsumoto.nagano.jp/uploaded/attachment/109640.pdf
気候市民会議まつもとの実行委員会は、信州大学と松本市、そして有志の学生組織「気候わかもの会議(Y-CAM)」で構成
会議を運営する実行委員会は、参加者への情報提供や、参加者による熟議のコーディネート、参加者の意見を踏まえたアクションプラン案のとりまとめを円滑に進めることを目的として、信州大学と松本市、有志の学生組織「気候わかもの会議(Y-CAM)」で構成された。


◎「気候わかもの会議まつもと(Y-CAM:Young Climate Assembly Matsumoto)」とは(以降Y-CAM表記)
気候市民会議を松本で行うにあたり、気候市民会議まつもと実行委員長の信州大学准教授(※)の茅野恒秀先生のゼミ生を中心に、有志の市内在住・在学の学生から成るY-CAMを組織。気候変動についての学びを深める目的と共に、会議前の資料作成や当日の進行、会議結果の取りまとめなど、幅広い実務を担いました。
※2025年4月からは法政大学 社会学部 教授 / 信州大学 特任教授


◎茅野恒秀(ちの つねひで)さん
1978年東京生まれ。信州⼤学⼈⽂学部社会学科 准教授(2025年3月まで)。⻑野県ゼロカーボン戦略策定時の専⾨委員(2021年策定)、同⼤環境マインド推進センター地域カーボン・ニュートラル推進部⾨⻑を歴任、松本地域でのソーラー発電実態調査を実施し、地域の脱炭素計画策定を支援。
自然エネルギー信州ネット理事、松本平ゼロカーボン・コンソーシアム運営委員⻑などの長野県内の活動にとどまらず、環境社会学の専門家として日本中を飛び回る。2025年4月からは法政大学 社会学部 教授 / 信州大学 特任教授。
また「気候民主主義の日本における可能性と課題に関する研究」プロジェクトの研究メンバーとして「気候市民会議」の開催を推進する。

直接話が聞きたい!Y-CAM(気候わかもの会議まつもと)メンバーへのインタビューが実現
松本市博物館の講堂にて、2025年3月22日に開催された「気候市民会議まつもと 報告会」終了後、信州大学の学生Y-CAMメンバー4名に残っていただきインタビューを実施。(Y-CAMは全員で21人)
インタビュアーは、気候市民会議まつもとのグループリーダーで自然エネルギーネットまつもと代表、信州大学で2003年から4年間、非常勤講師として「地球環境問題」を教えていたこともある平島安人さんにお願いしました。


◎平島安人(ひらしま やすひと)さん
環境活動家、諏訪市出身・在住、2022年2月まで会社員。会社勤めの傍ら、エンジニアのキャリアを評価され東京工業大学(独創機械設計)で3年間(1997~1999年)、市民活動のキャリアを評価され信州大学(地球環境問題概論)で4年間(2003~2006年)非常勤講師を歴任。
1986年より環境問題に関わり、温暖化防止京都会議(COP3)が開催された1997年からは気候変動問題への本格的取組みを開始。信州気候フォーラム事務局長として啓発活動を展開。
長野県地球温暖化防止県民計画の策定に参加、“地球温暖化対策「長野モデル」”を提案。同時期より森林ボランティアとしても活動、1998年森林ボランティアグループ森倶楽部21を立ち上げる。
2011年に自然エネルギー信州ネット、2012年に自然エネルギーネットまつもとの設立を進める。
現在は「地域にあるものを活かすくらし」「未来世代に対して現世代の責任を果たす」をモットーに、環境問題全般に関しての啓発活動、森林整備などに取り組んでいる。
【所属団体・活動母体】
自然エネルギネットまつもと(エネットまつもと):代表、設立メンバー https://www.enet-matsumoto.com
自然エネルギー信州ネット:理事、運営会議議長、政策調査部会長、設立メンバー https://www.shin-ene.net
NPO法人 森倶楽部21:理事、設立メンバー http://mori21.com/
SDGsから諏訪を考える会:世話人、設立メンバー https://www.facebook.com/sdgssuwa
●平島
さて、最初の質問です。
Y-CAMは何がきっかけで始まったんですか?

◎石井さん
信州大学の茅野先生のゼミ(授業)での取り組みとして始まったようですが、私のようにゼミ生でなくても1年次に茅野先生の講義を受けていた学生には、いろいろな情報やイベント告知がメーリングリストで共有されていて、その中の一つにY-CAM情報があり、私はそこで手を上げたメンバーです。
人文学部の茅野ゼミ生が中心ですが、他学部も複数人参加しています。
※その後、Y-CAMの活動がメディアで取りあげられると、高校生も参加するようになります。
●平島さん
次の二つ目からは全員に質問です。
皆さんは、環境問題や社会問題にもともと関心がありましたか?

◎大岩さん
もともと高い意識はなかったんですが、大学で茅野先生の授業を受け、実際に資料づくりなどをする過程で意識が高まっていきました。

◎渡邊さん
もともと興味はあったんですが、実際の行動にまでは至っていませんでした。
大学で関心のあった生物多様性や気候変動の講座を受講し、3年になって茅野先生のゼミに入り、アクションを伴ってさまざまな活動を始めたことで、具体的な興味が湧いてきました。
◎石井さん
中学2年のとき、西日本豪雨(※)の記事を新聞で読んで、当時それを新聞研究の題材にしました。「西の方で大変なことがあったんだな」と思って調べていくうちに、それが地球規模の温暖化問題が原因で起きてしまっているんだと分かりました。それに、どこかの国では島自体が沈んでいっていること、このままでは、いずれは私たちのところも今のような暮らしができなくなってしまうことに気づかされました。そして、自分自身でできることはないかと、いろいろ調べ始めたのが関心をもったきっかけでした。
※西日本豪雨
平成30年(2018年)7月豪雨により、河川の氾濫、浸水害、土砂災害等が発生し、死者237名(広島県115名、岡山県66名、愛媛県31名、他府県25名)、行方不明者8名、重軽傷者は432名の大きな災害となった。(消防庁情報、平成31年1月9日現在)

◎吉村さん
小学生の頃からの趣味だった博物館巡りのなかで「温暖化による海面上昇」を知り、東京とか自分の住んでいる神奈川(出身が藤沢市)でもその影響をうけるかもしれない。環境についてきちんと知りたい。今何が起こっているのか学びたい。という欲求が生まれ、大学の理学部で学術的・理論的に学びたいという思いになりました。今は、市民の皆さんの声や行動で環境問題をどう食い止めていくことができるのかに興味が湧いています。
●平島
では、Y-CAMに参加しようと思ったきっかけは?

◎大岩さん
社会学を学ぶ上でY-CAMへの参加は、調査などを通した重要な学びになると考えましたが、当初は半ば強制的?な感じでメンバーになった感もありました。ただ、実際にY-CAM参加で知識も格段に高まりましたし、同じ松本市民でもさまざまな暮らしの営みがあって、伴いそれぞれが違う思いやニーズを持っていることを実際に知ることができたことは、すごく勉強になりました。
当初、茅野ゼミの学生は全員Y-CAMに招待されました。(いやではなかったが強制的だったかな)
◎渡邊さん
最初の入り口は強制的だったかもしれませんが、6回の気候市民会議に参加するのは自由意志。だから、参加したってことは、みんな興味はあったんだと思いますし、意欲もあったはずです。

◎石井さん
以前から気候変動問題について、学生同士や専門家の方と対話する機会はありましたし、対話することで学びになっていましたが、「実際にアクションに結びついていない。しゃべっているだけで自分は何もできていないな」と感じていてたので参加してみようと思いました。
実際に行動するのは自分も含めたそこに暮らす市民ですし、自分でできることや家族や地域をまきこんでできることって何だろう。それを生活や行動に落とし込んでいくプロセスに関わってみたいと考えていました。
無作為で抽出された市民の方々が、今何に困っていて、環境問題に関わる課題をどんな風に考えているんだろう。市民の皆さんはどんなアクションを起こしてみたいんだろう。それを実際に聞いてみたいし、話したいと思っての参加です。そして、実際たくさんの話を聞くことができました。
◎吉村さん
市民が考える気候変動対策と経済的メリットの共存は実現できるんだろうか。それが知りたかったんです。気候変動対策は、経済的なものと結びついて、何かしら行動者にメリットが与えられる仕組みが必要だと以前から考えていました。
そして、何が行動者のメリットになるんだろう。それについて、市民の皆さんが考え、話し合い、作り合う場に参加できることで、自分の考えを明確にできるんじゃないかなと思ったのが一番のきっかけでした。

◎参加者の皆さんから出た疑問に向き合ったY-CAM。50ページに及ぶアンサーレポートを作成しました
Y-CAMが参加者のみなさんからの疑問を調査&回答(全体)
https://www.city.matsumoto.nagano.jp/uploaded/attachment/106954.pdf





●平島さん
参加者からのたくさんの疑問を解説した資料づくりなど、結構大変だったと思いますが
自分の中で気づきや変化があったら教えてください。
◎石井さん
松本市は市長を始め、気候変動対策に対して積極的な発信もされているし、補助金など経済的サポートもあるなという印象ですが、行政の方が積極的に推進しているわりに、補助金などの使用者が少ないという話を聞いて、それが何でだろう?と思っていました。今回の会議の成果としてできたアクションプランには、市民のやりたいこと、できそうなことに対応する政策も紹介されています。やりたいことベースで施策を結びつけるような、市民目線の逆引き便利帳のような役割もあり、各施策がやりたいアクションに対して見やすく整理されたんじゃないのかなと思っています。
今は、施策をつくるのがゴールではなく、市民と対話して、「実際に何がやりたいんだろう」を聞きながら相互の理解を図っていくことが、実際の行動に結びつくときには大事なんだろうなと考え方が変わってきました。

◎吉村さん
市民の皆さんが主体的に行動していることが印象的でした。例えば、第2回目会議の冒頭で、第1回の宿題「周りの人に話しましたか?」に対して「家族に話した」「周りの人に話した」という人がすごく多く、皆さん自分事として学ぶことで、こんなにも行動につながるんだ!ということに驚きましたし、最後の6回目で、皆さんの意見をまとめるときも、前のめりで「自分はこう思っているんだ」「ここをこうしたらいい」という意見が多く、をまとめるのが大変でした。学びの場を提供して、そこに参加して、意見を交わしていくことで、遠かった問題が、自分事として考えられるようになり、自分はこうしたいんだという思いを見つけることができ、本当に素晴らしいと感じました。こうすれば、市民の声を拾っていくことができるんだと気づくこともできました。

◎渡邊さん
会議に参加して、社会には多様な人がいることへの理解が足りていなかったんだと気づきました。無作為ですが年齢、住んでいる地域を考慮して集められた市民の皆さんの「私は農業をやっています」「わたしは〇〇の専門家なんです」「私は実際にソーラー発電を導入している」「年で足腰が弱く」などの話を聞くなかで感じたのは、今までは身近な人とばかり話をして、多様な人と話すことの大事さに気づけていなかったことでした。
自分も多様な人の一人なので、しっかり自分の意見を持って発信していくことが、多様な意見を集約するアクションプランのようなものにつながっていく、そんな多様性の重要さに気づきました。
●平島さん
最後の問いです。
気候市民会議自体やまとめられたアクションプランは「この先どうなっていくのがいいのか」「どんなアクションにつながればいいのか」「つなげて広げていく方法」など、アイデアがあれば教えてください。

◎石井さん
松本市民23万人の縮図でもある50人のまわりにいらっしゃるたくさんの方に、今度は参加された方がこの会議で得た情報や意見をお話しすることで、少しずつ市民にゼロカーボン意識が広がり、最終的に23万人に広がるといいなと思っています。「今日はいい天気だね」と同じレベルで「コンポスト始めたんだ」とか「あの太陽光発電いいよね」とかが日常的な会話になると、次のステップにつながっていくんじゃないかな。
◎吉村さん
私も石井さんの考えに賛同。お互いが「それわかるよ」となることが大事なんだと思います。今回まとまったアクションプランは、「プランが多過ぎ」という人がいますが、このくらい包括的な方が、人それぞれのやれることに対応できるんだと思います。大学生と社会人ではできることが違いますよね。自分も「家の断熱をやりたいけど、借家なのでできない」にモヤモヤを抱いています。できそうなことや実際にやった人の事例も含め、「皆さんの生活に当てはめてみませんか」といった具体的なアクションベースの提案が大事なんだと思います。
「大学生もこんなことができるよね」「それって脱炭素につながっているよね」。といった提案がY-CAMの継続活動としてでできたらいいなと考えています。
◎渡邊さん
これやろう、あれやろうも大事なんですが、アクションプランにもある「自分の現状を理解することがとても大事なことで、本当の第一歩なんだ」と今回の会議に参加するなかで考えるようになりました。自分のCO2排出量を調べてみたり、電気や水道をどのくらい使っているのかを知ることなど、自分自身のことが分かっていないと、さまざまな情報をきちんと自分の中に落とし込めないと感じていますし、現状把握が情報を受け止める下地になることを実感しています。
◎大岩さん
私は市や県の行政志望で就活中ですが、将来、行政職員になったら、市民会議の大切さを発信していきたいと思っています。
4名全員が3年生。大岩さんだけでなく、皆さん就活真っ最中のなか、インタビューに協力いただきありがとうございました。
今回は、Y-CAM有志の一部のメンバーへのインタビューでしたが、彼等が今回の気候市民会議を通して多様な世代、多様な暮らしの大人の現実的な意見や思いを聞き、そして会議の過程での参加者の変化を目の当たりにすることで、一人ひとりが会議前より明らかに成長していることがうかがわれるインタビューでした。
気候市民会議まつもとのアフター企画にもY-CAMメンバーが参加
気候市民会議まつもとの協力団体「自然エネルギーネットまつもと」が、定期的に開催しているワークショップのサステナブルなまちづくり「井戸端かいぎ in 松本」で、気候市民会議まつもとのアフター企画『気候市民会議をつなげて、広げていこう!』を2025年3月23日に開催。市民会議の参加者、Y-CAM等関係者も参加し、市民会議で生まれた気づきややる気を広げていく仕組みなどを考える機会となりました。
※詳しくはhttps://www.facebook.com/enet.matsumoto


Y-CAMのメンバーは、市民会議の準備から最後のアクションプラン作成のお手伝いまで、かなりの熱量をもって取り組んでいました。何より、50人弱の多世代の参加者と対話し、専門家の皆さんの貴重な話を聞き、参加者の疑問を丁寧に調査しまとめる、といった体験・経験を通して一人ひとりが大きな成長を遂げたはずです。
みんなで取り組まなければいけないとても大きな課題です。だからこそ課題感と志を持って、気候市民会議まつもとの運営メンバーとして学んだことを誇りに、将来社会人として自らの意見を積極的に発信し続けて欲しいと思います。若者発で共感者を増やしていってください。
私たちは、彼等のこれからの行動に期待するとともに、応援できる大人であり続けたいと思います。